「移民還流」(杉山春)

図書館にて借出し:


移民環流―南米から帰ってくる日系人たち

移民環流―南米から帰ってくる日系人たち


先日読んだ「外国人学校」で遅ればせながら在日ブラジル人学校の多さに気がついた訳ですが、この不景気・派遣切りの御時世に
経済的弱者の彼らは真っ先に切り捨てられているのだろうかと案じていたところ、やはりその種のニュースが頻繁に耳に入ってくるように
なりました。


●「仲間守れ、自主団体設立 豊田・保見団地のブラジル人」(中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/koyou_houkai/list/200902/CK2009020102000141.html
]


●「親失業で生徒半減 不況余波…県内ブラジル人学校」(下野新聞
http://www.shimotsuke.co.jp/biz/economics/prefecture/news/20090131/106089



本書でもその実態が描かれていますが、著者の元々の得意分野が親子問題ということで家族内での繋がり(の弱さ)が強調されているのが
印象に残りました。


ブラジルにも日本にも帰属意識が持てずに孤独感に苦しむ日系ブラジル人の出稼ぎ労働者たち…というところまでは予想がついたのですが
単純労働者として周りの同胞が皆ライバル(相手が雇われれば自分がクビになる)というシビアな環境では通常成立すべき日系人コミュニティ
ですら信頼できるものとならない、という過酷な状況は想像外でした。


語学の不自由さと単純労働という誇りをもてない仕事から劣等感に悩む親を見て育つ子供たちは大人を信頼できず、また学校も充分なケアを
期待するにはあまりにも制度的・人員的不備が大きすぎるため、子供たちは学校を捨てて不法労働で金を貯めるか、窃盗などの犯罪に手を
染めることになってしまう。
人生で初めて親身になって相談に乗ってくれる大人が補導した警官だったり、少年院の担当だったり、という事実はあまりにも悲しすぎます。


それでも仕事があってお金が稼げたバブル時代ならともかく、今はもはや職もなくブラジルへ戻らざるを得ない現状。しかしブラジルでも
明るい未来が待っているわけではなく、引き裂かれたアイデンティティはますます混乱をきたすばかりでしょう。
日本側も、帰ってしまえばハイさようなら、ではなく、今からでも自治体を中心に彼らを救う制度をもっと整備する必要があるはずです。
一番の弱者を救う手立てが、社会全体を救う手立ての第一歩であると信じたいです。