「反ユダヤ主義を美術で読む」(秦剛平)


図書館にて借出し:


反ユダヤ主義を美術で読む

反ユダヤ主義を美術で読む


「美術で読む」という題名の割には、実際の図像学的検証は後半の第5講から。
以前からのシリーズ↓に合わせたのだろうけど、ちょっと肩透かしをくらった気分。


旧約聖書を美術で読む  新約聖書を美術で読む


とはいえ前半は前半で面白かった。
元々は異なる風習を持つユダヤ人に対する感情的な拒否反応が、キリスト教が成立し聖書が正典として確立する中で
確信犯的に、神学的見地から「ユダヤ人は悪である」という反ユダヤ「主義」に定着していく過程が説明される。
巧みに埋め込まれた聖書の描写により、信者は無意識のうちに反ユダヤ主義に洗脳され、疑いもせずに弾圧を
推し進める。聖書学の優れた権威である学者達も、あまりに自然に反ユダヤ主義に浸かっているので、滅多にこの点を
指摘しないと著者は嘆く。本当だとしたら恐るべきサブリミナル効果ということになる。


こういった歴史を踏まえて実際にユダヤ人が描かれている挿絵や絵画を見ると確かに、ここまで酷く描くか…と
思えるような惨い描写も多い。それが聖書を通じて「ヤーイざまあみろユダヤ人」と自然に思えるようになったら
立派なキリスト信者ということになるのだろうか。ある種の不寛容さは以前から感じていたものの少し考えてしまう。



余談だがこの本の内容はカルチャーセンターでの講義が元になっているそうな。こんなマイナーな題目でも
ちゃんと講座として成立してしまう、ってのもスゴイなあ…とヘンな感心をしてしまった。