「ザ・ロード」(コーマック・マッカーシー)


図書館にて借出し:


ザ・ロード

ザ・ロード


本来ディストピアものは苦手なので、この作品を読む際にも多少の躊躇はあったのですが「すべての美しい馬」で
すっかり虜になったマッカーシーなので(とはいえ「血と暴力の国」はノリ切れず…)読んでみました。
予想を遥かに超えた素晴らしい作品でした。


削ぎ落とせるものは全て削ぎ落としたかのような文体と内容は、登場人物の身振りや言葉の一つ一つがまるで
何かの象徴であるかのように純化されて胸に響いてきます。描写自体は決して難解でも曖昧でもないのに幾らでも
深読みができそうな奥深さを潜ませています。聖書を始め様々な文献と絡めた解釈でこれから盛り上がりそう。


既に複数の人が指摘しているように、私も連想したのは米国の詩人、ロバート・フロストの作品世界。彼の詩も
曖昧ではないのに深遠で、その言葉を前にずっと考え込んでしまうような性質を帯びています。


ロバート・フロスト"Stopping By Woods On A Snowy Evening"(原詩+訳)(Aji's Room)



あとは「火を運ぶ」繋がりから、タルコフスキーの「ノスタルジア」でしょうか…そういえば彼の遺作
サクリファイス」は核戦争勃発を知った男が幼い息子を守ろうと自らの命を犠牲にしようとする話でした。


こういった深読み合戦を抜きにしても、過酷な旅路の間に交わされる父と息子の会話はたどたどしいがゆえに
澄んだ水のような清らかさを感じさせます。世のお父さん達は読みながら泣かずにはいられないでしょう。
純文学系、SF系、人情もの系などなど幅広い層の読者に読まれるべき作品だと思います。イイです。




すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)

すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)

こちらは親友同士の会話にシビれました…ハヤカワさん、早くepi文庫で国境三部作を揃えて下さい!