「破滅者」(トーマス・ベルンハルト)


図書館より借出し:


破滅者/グレン・グールドを見つめて

破滅者/グレン・グールドを見つめて

実際にこれほど恐ろしいことはない。ある人間に会って、その人がとても偉大であるがために、その偉大さに
自分の存在が無に帰せしめられてしまう。そしてそのプロセスを自分で眺め、それに耐え、そしてついに
最後にはそれを受け入れなければならない。実際にはしかも、そうしたプロセスがあるということを、それが
くつがえしがたい事実となってしまうまではずっと信じることができないのだ、と私は思った。それがすでに
私たちにとって手遅れになっている場合でも。(p.106)


グレン・グールドに出会ったことで、自分の才能の限界を思い知り音楽の道をあきらめた「わたし」と
その友人・ヴェルトハイマー。二人の人生はグールド自身の人生の変奏のようでもある。グールドの死を
追うようにヴェルトハイマーは自殺し、「わたし」はその葬式に参列する。


実際に「破滅者(Der Untergeher)」と呼ばれているのはヴェルトハイマーの方で、語り手である「わたし」は
僕がピアノをあきらめたのはグールドのせいじゃないもんね最初から自分の意思だもんねと延々差別化を
図った発言を繰り返していますが、いやいやこの人だって充分アヤシイもんです、そう簡単には信じませんよ。


もはや気持ち良いほど呪詛炸裂!のベルンハルト節はここでも充分に発揮されていました。
ちゃんと段落分けされた文章だったので、昔はそういう書き方だったのかと思っていたら、あとがきによると
これは訳者の判断でなされたもので、実際にはお得意の「段落一切無しの塊」文章だったそうな。
柴田元幸氏だったら怒るな…文学系出版社ではなく音楽之友社で出しているがゆえの妥協でしょうか)


ああやっぱりもっともっとベルンハルト読みたいです。どこかで全集出してくれないかしら…。