「Night Train to Lisbon」(Pascal Mercier)
ドイツ在住時に購入。オリジナルはドイツ語の「Nachtzug nach Lissabon」(Amazon.de情報)で、2004年の発表以来
200万部以上のベストセラーとなった。著者は本名Peter Bieri名でも著作がある哲学教授で、
Pascal Mercierは小説を書くときのペンネーム:
- 作者: Pascal Mercier
- 出版社/メーカー: Atlantic Books
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: ペーパーバック
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古典語教師のグレゴリウスは地味な性格のバツイチ中年男性。
平凡で単調な毎日を送る彼に転機をもたらしたのは、ある女性との出会い。
通勤途中、思いつめた様子で橋にたたずむ女性に思わず声をかけたグレゴリウスは、動転した彼女の
思わぬ反応に不意を突かれる。なんと彼女はペンを借りると彼の額に電話番号を書きつけたのだ!
(よっぽど書きやすそうなオデコだったんでしょうね…)
我に返った女性は「忘れないうちにどこかにメモしておかなきゃと思って…」と言訳し、
(後でちゃんと紙をもらってその番号を書き写す)ほんの少しの会話の後、姿を消す。
彼女の母語がポルトガル語である、という手がかりだけを彼に残して…。
もうこの強烈なオデコ事件だけで掴みは充分、その後の展開が楽しみに!
しかしここから彼と謎の女性の切ない恋物語が始まるのか?と思ったら、そこは奥ゆかしいグレゴリウス君、
そう単純に物事は進みません。
「ポルトガル語」という情報だけしか持たない彼は、その後で元妻の行きつけだった古本屋に立ち寄り、
そこの店主からあるポルトガル語の本を薦められる。店主の訳してくれた文章に心引かれた彼は、
その本を購入し、辞書を片手に必死に自分で読み進めていく。次第に著者・プラドの人生そのものにも
興味を抱いたグレゴリウスは、それまでの生活を全て捨ててリスボンへ赴くのだった…。
幾ら多国語に通じているからってポルトガル語読めるようになるの早過ぎ!とか(さすがに話すのは
暫く不自由する)、都合よくプラドの知人に巡り会いすぎとか、突っ込みどころがないとは言わないけれど、
そんな些細な事はどうでもいいと思わせる面白さ。
プラドはリスボンの名家出身で、あまりに聡明であるがゆえに過激で懐疑的で、理想化肌で時に臆病でもある、
そんな複雑なメンタリティの持ち主。グレゴリウスは彼を知る人たちを訪ねて彼の生涯を確かめながら、
その折々に彼の遺した膨大な走り書きや手紙に目を通す。プラドは医者だったがその本質は言葉の人、
自分の思いを常に何か書き留めずにはいられない。父親への愛憎混じった複雑な感情も、結局出されなかった
父への手紙として残される。(父親も同様に息子に対し、読まれない手紙を書いていた事が判明するエピソードには
なんとも遣り切れない気持ちになる)悩み迷いながらの彼の生涯は強烈な印象を与える。
グレゴリウスもまさしく言葉の人だが彼の場合は「読む」人、ひたすらプラドの遺した文章を読む事に没頭する。
表面的には二人は全く似たところのないのだが、プラドの文章を読み、彼の人生を辿ることで自分自身の
生き方をも見つめ直し、控えめにだが徐々に変化していくグレゴリウスがとても魅力的に描かれていく。
本を読み、その内容や著者と心の奥深いところで共鳴して新しい自分が開かれていく(それがあくまで一方通行の
片思いであったとしても)、そんな喜びを知っている人にはグレゴリウスの変化が理解できると思う。
二人分の人生を一気に味わったような、そんな充実感で読み終えた一冊。脇キャラもみんな良い!
- 作者: カルロス・ルイスサフォン,Carlos Ruiz Zaf´on,木村裕美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/07/01
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ふと手にとった一冊の本が人生を変える…というシチュエーションとか、その本と深く関わるうちに
歴史の暗部(戦争・独裁政治など)にも気づかざるを得なくなる、といった辺りなど「風の影」と
ちょっと似てるような印象も受けました(っていうか、これってもはやお約束のパターンですわね…)が、
「風の影」のノリは決して嫌いじゃないけどやっぱりちょっとお子ちゃま、もっとじっくり落ち着いた
大人の小説が読みたいという人に読んでみてもらいたいです。