「カチアートを追跡して」(ティム・オブライエン)


古本にて入手。これって今は新刊では入手できないらしい。なんともったいない:


カチアートを追跡して (新潮文庫)

カチアートを追跡して (新潮文庫)


今更私が付け加えることもないのだけど、とても良い小説でした。
古典としてずっと読まれ続けてほしい作品だと思います。
アメリカがベトナム戦争を(意識的/無意識的にかかわらず)記憶から消去しようとしないことを願います。



確かにマジック・リアリズムっぽい部分も多いのだけど、本人がどこまで意識的に取り入れたのかは良く知らない。
ガルシア=マルケス百年の孤独」が67年、この小説の発表が78年だから影響されている可能性もあるけれど
むしろ自分の書きたいことをコツコツ書き溜めていったら似たようなものが出来上がってきた、という感じがする。
(フォークナーは意識してるかもしれない)
ヴォネガットが自分の戦争経験を書いた「スローターハウス5」が、当時の文壇ではSFというカテゴリーでしか
受け入れられなかったという事実を連想させる。
形式から入るのではなく、あくまで内容が形式を決定するという一例。


章ごとに巧妙に時系列を組み換えているのだが、それが読者をあまり混乱させないのは登場人物の死が決定的な
指標として機能しているから。死人が生き返るという類の話ではないので、Aという章で殺された兵士がその後の
B章で普通に登場してきたら、単純にB章はA章以前の出来事ということになる。
死んだ者/残された者の顔ぶれで時系列が決定する、という分かりやすい、そして恐ろしい仕掛け、と思った。