「Zoli」(Colum McCann)


実は最近までこの著者と「The Master」のコルム・トビーンとをごっちゃにしておりました…。
もちろんこちらもアイルランド出身(現在はNY在住)。当然ひいきします。ほほ。



Zoli

Zoli

(PB:asin:0753821648)


第二次大戦中にロマ(ジプシー)はユダヤ人と同様の迫害を受けながらも
その後の補償については大きく遅れをとっている、という話を聞いている。
その理由の一つとして彼らの文化継承が伝統的に口承を基本としており、
読み書き能力はむしろ蔑まれる傾向があったことが指摘されている。
(今は変わりつつあると思うが)
記録に残らない歴史は記憶にも残りにくいのだ。


従って彼らの文化や歴史の紹介はこれまで第三者(西洋人)によるレポートと
いう形を取る事が多かった。
しかし著者は作家の想像力を駆使して一人のロマ女性に自分の人生を語らせている。
その試みの全てが成功しているとは言えないが、読者を惹きつけるだけのスリルと
インパクトは充分に備えた小説になっていると思う。


大戦中のファシズム、戦後の社会主義といった他者の政策に振り回されながらも
偶々読み書きを学ぶ機会を得、また詩作の優れた才能を持った女性・Zoli。
その経歴はロマの代表的な女性詩人・Papuszaの経歴を緩くなぞったということで、
なるほど調べてみると固有名など詳細は変えているもののかなり忠実に再現されて
いるように見える。


しかし後半に入ると Zoliの人生は Papuszaのそれから大きく逸脱する。
実際のPapuszaは一族から裏切者の烙印を押された後は精神病院に入り、その後も
孤独な生活を強いられたようだが、物語の Zoliはどん底でもがきながらも、
詩人としての自分を捨てても新たな人生を歩むべく西側へ渡ろうと果敢に挑む。
個人的にはこの後半に入ってからの方が断然に面白かった。


体言止めを多用した文章は正直あまり好みではないし、著者の分身&狂言回しである
スワン君の役割がちょっとカワイソ…と思ったりもするが、ロマの文化や心情などが
とても身近に感じられた。もっとロマについて色々読んでみようと思う。


参考:
「ロマ」(Wikipedia・日)
「Bronisława Wajs (known as Papusza)」(Wikipedia・英)



立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし

立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし


著者が非常に影響を受けたとあとがきで語っている、ロマについて書かれたルポ。
非常に情報量も多く評判も高いので、一度読んでみたい。