「ある島の可能性」(ミシェル・ウエルベック)


古本にて購入。2005年に仏・英・独でほぼ同時に発表された問題作。
素粒子」の続編的意味合いの作品ということもあって読んでみました。


ある島の可能性

ある島の可能性


基本的なテーマは愛と性への絶望(とほのかな希望?)ということで
素粒子」とさほど変わらないが、あっちの舞台が50-70年代中心だったのに対し、
今作はずっと現代に近い(というか本当は近未来)ので、より自分には身近に
感じられる部分が多かった。


「SFぽい設定のディストピア小説」というのは大抵パターンが決まっていて
つまらないものだが(大体ディストピアなんだから楽しい話のはずがない)、
実在カルト集団「ラエリアン・ムーブメント」の教義を元ネタに使うあたりが
さすがウエルベック。設定から既にSFのパロディなので、陳腐なSF臭が
現代風俗への批判にさらに辛辣さを加えている。その匙加減の絶妙なこと。


●参考:「新興宗教団体『ラエリアン』の実態を暴くビデオ映像」(by Hotwired)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20050901206.html
(しかし本物もかなりブッ飛んでる…)


相変わらず辛辣で、人間の醜い部分を嫌というほど見せつける内容でありながら
思いのほか不快感が少ない(皆無とは言わない)のは、やはり徹底的に真摯な
著者の姿勢から来るものなのだろう。全くウェットじゃないのに、しばしば
胸を衝かれるような文章に出会ってグッとくる。


さて次はどんな作品を書くのだろう、といってもこの人の場合いきなり方向大転換、
というのは考えにくい。ドイツの書評誌に載っていた寸評:
「ひょっとするとウエルベックは一つしかテーマを持っていないのかもしれない。
しかし彼は、それで読者を退屈させないだけの作品を1ダースだって産み出せるだろう」
…うん、正に。



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