「The Interpretation of Murder」(Jed Rubenfeld)


フロイトが被害者の精神分析を通して不可解な事件の真相に迫る…という
設定に惹かれて読んでみました:


The Interpretation of Murder: The Richard and Judy Bestseller

The Interpretation of Murder: The Richard and Judy Bestseller


舞台は1909年のニューヨーク。高級マンションで若い女性の奇妙な死体が発見される。
そして次の日、明らかに同じ手口と思われる方法で別の女性が襲われる。
命に別状は無いものの、ショックで声と事件の記憶を失ってしまったその女性に対し、
たまたま講演のため渡米していたフロイト博士と、その世話役の新鋭アメリカ人精神科医
治療にあたることになったのだが…。


話の筋もさることながら、当時のニューヨークの風俗が物語に上手く取り入れられていて面白い。
お金持ちは日ごとパーティーに興じ、摩天楼や鉄橋が次々と建設される。一方で貧しい人々は
その日の食べ物にも欠乏し、スラムに追い立てられ売春や汚れ仕事に手を染める。
平等を理念とするアメリカにも間違いなく階級の差が存在している。


フロイトユングといった有名どころが実名で続々登場するのも楽しいところ。
まだまだ精神分析などろくに知られていなかった時代に性的抑圧の存在を世に知らしめた、
しかもユダヤ人のフロイトに対する世間一般の風当たりの強さも物語を進める重要な要素になっている。
フロイトの精神病医仲間たちも一癖も二癖もある個性派ばかりで、おかげで話はますます混乱してくる。
特にユングフロイトに対する火花バチバチな視線が刺激的。


ミステリとしての評価はどうなのか、非ミステリ読みの私にはよくわからないけど
最後まで読むとちょっとそのどんでん返しは強引かなーとは思ったものの
途中はすっかり騙されていたので、トリックはまあ成功しているのかな。
ミステリ読みでなくても「ちょっと知的なエンタメ」として充分楽しめる作品。