「ベルリン・フィルと子どもたち」

ベルリン・フィルと子どもたち スタンダード・エディション [DVD]

ベルリン・フィルと子どもたち スタンダード・エディション [DVD]

日本公式サイト:http://www.cetera.co.jp/library/bp.html


邦題だと良い子ちゃん向けおすましクラシック映画のようだが、原題は「Rhythm is it!」とヒップホップみたいな躍動感がある(実際、映画の最初と最後に流れる音楽はヒップホップだ)。言葉が生まれる以前からヒトは音を通じて他者とのコミュニケーションを図ってきた。リズム(音楽)こそコミュニケーションだ!という意味がそこには込められている。


ベルリン・フィルの芸術監督に就任したサー・サイモン・ラトルが提案したプロジェクトに基づき、ベルリンから250人の子どもたちが集められる。クラシックにもバレエにも興味のない若者たちが、6週間後にベルリン・アリーナで現代バレエ「春の祭典」を披露することになる。


春の祭典」には個人的に思い入れがある。
学生の時、たまたまTVで観たM・ベジャールの振付に腰を抜かした。人間ってこういう動きも出来るのか!と驚愕した。「蠢(うごめ)く」という漢字があるが正にそんなイメージ、春になって原初的な力がずんずんと湧き上がってくる様が、人間の肉体のみで見事に表現されていた。
それが、私がモダン・バレエと現代音楽に興味を持つきっかけだった。



しかし、そんな思い入れを除いても充分見応えのあるドキュメンタリーだった。
言いだしっぺはサー・ラトルだが、実際に子どもたちを指導するのは振付師のロイストン・マルドゥーム。彼の終始真摯な態度が、とても印象に残った。


最初は顔見知りで固まってクスクス笑っているだけの子どもたちを、マルドゥームは根気よく、時には厳しく指導していく。沈黙に耐えて自分を見つめ直すこと、一つのことに集中することの大切さを、彼はダンスのレッスンを通じて教えようとする。自分はダンスによって救われた、ダンスによって人々と繋がる術を得たのだ、と信じるこの男の真摯さこそ、当初無関心だった若者達を揺さぶる原動力となったのは間違いない。


随所に差し挟まれる若者達へのインタヴューでは、内面的な葛藤や外部の事情に振り回されて苦しむ彼らの素顔が映し出され、観ている方も息苦しく、切なくなった。(もっと反抗的な意見を取り上げても良かった気もするが)


原題の副題には「You can change your life in a dance class」とある。もちろん参加した全ての若者にそれが当てはまるとは思わない(実際、途中で脱落者もかなりいたようだ)。しかし何人かは確実にこの経験から何かを掴み取ったはずだ。


クラシックとか教育とかいった前提や偏見を一度取り払って、できるだけ多くの人にまずは観てもらいたい、そう素直に思った。




ベルリン・フィルと子どもたち コレクターズ・エディション [DVD]

ベルリン・フィルと子どもたち コレクターズ・エディション [DVD]

この特別版では本編で一部しか紹介されなかった「春の祭典」のステージ全編が収録されているそうな。うう、観たーい!