「アイルランド幻想」(P・トレメイン)

アイルランド幻想 (光文社文庫)

アイルランド幻想 (光文社文庫)

著者はこの幻想物語集に、<アイルランドの恐怖(ホラー)の物語>という
副題を付けている。しかし彼の恐怖には、生理的嫌悪感をもよおさせるおぞ
ましさはない。むしろ、怒りを秘めた慟哭の物語だ。敗れ去った太古の神々
の、あるいは英国の支配の下で土地も自由も信仰も言語も奪われ僻地へ追い
やられたアイルランド人の、とりわけ十九世紀の<大飢饉>の際に英国の植
民地政策のせいで悲惨極まりない地獄を味わわされたアイルランド農・漁民
の、怒りと恨みと嘆きの物語である。それがこの作品の恐怖に深い思いを添
えているといえよう。(p.467「訳者あとがき」より)


読んでいると目の前にアイルランドの美しくも厳しい自然が広がってくるような気がしました。話の筋自体は正統派のホラーですが、怖いというよりやっぱり切ない、という印象の方が強いです。訳注が丁寧なので、予備知識がなくても問題なく読み進められるでしょう。欲を言えば簡単な地図・年表がほしかったけど、まあそこまで求めるのはマニアすぎるかな。とにかくけるきち(けるとき○がい)は必読です。



【参考】

Star of the Sea

Star of the Sea

アイルランド史を語るときには欠かせない、1845年からの大飢饉の悲惨な状況と、そこから逃れるためにアメリカ行きの船「Star of the Sea」号に乗り込んだ人達を描いた骨太の小説。著者は歌手・シンニード・オコーナーの実兄。お兄ちゃん頑張ってます!