「黒人霊歌は生きている」(ウェルズ恵子)


図書館にて借出し:


黒人霊歌は生きている―歌詞で読むアメリカ

黒人霊歌は生きている―歌詞で読むアメリカ


読もうと思ったのは、パワーズ「われらが歌う時」で紹介されていたマリアン・アンダーソンのエピソードが
非常に印象的だったから。その後調べていく中で彼女がクラシックだけではなく黒人霊歌の歌い手としても
優れていたと知り、興味を持ったのでした。
本書で取り上げられている内容と「われらが…」は直接的には関係していませんが、奥の深い部分で響きあう部分が
多かったので、どちらかを読んで感銘を受けた人は是非もう一方も読んでみて欲しいと思います。


元々は奴隷時代の労働歌が、次第に夜つらい労働が終わった後に神に感謝を捧げる霊歌へと発展していき、
今度はそれに関心を持った白人有識者達が一般の白人家庭にも受け入れられやすい形に歌詞やメロディを整えて
現在の黒人霊歌の基礎が出来上がる。一方で労働や人生の苦しさに焦点を合わせた歌は、ブルースとしてその憂いを
受け継いでいく。


霊歌とブルースが枝分かれする前の渾然とした状態からの変遷が丹念に描かれており、歌に刻まれた奴隷時代の
つらい記憶が痛いほどに感じられました。思い出すのがつらくて当の黒人自身が省みなかった間に、白人有識者達が
自分達の好みに合わせて(というと悪意があるようですが本人達はあくまで善意の上で)霊歌を変化させて
しまっているのではないかという著者の指摘には頷くところが多かったです。私にとっては全く未知の分野でしたが
関連書も幾つか読んでみたいと思いました。



われらが歌う時 上

われらが歌う時 上


われらが歌う時 下

われらが歌う時 下