「女教皇ヨハンナ」(ドナ・W・クロス)


日本人向け図書室より借出し:


女教皇ヨハンナ (上)

女教皇ヨハンナ (上)


(下巻:ISBN:4794214499


私がドイツに来た当時から良く売れていた小説で、なんでなんで?と思いつつ未読のまま現在に至っていたが、日本語版が出たということで早速読んでみた。
「訳者あとがき」によると本国アメリカよりドイツでの人気の方が高く、200万部を売上げたとか。帯には「世界300万部」とあるから、3分の2はドイツってこと?


これは偶然だが、この小説にやや先行する形で「イメージの歴史 (放送大学教材)」(若桑みどり)を読んでいた。放送大学のテキストとして書かれた本なのだが、教科書としては随分フェミニズム的視点を強調してるなあ、とちょっと驚いていたのだった。


(ここで言う「フェミニズム的視点」を乱暴にまとめると、母権制から父権制への移行に伴い、ギリシャ文化、それに続くユダヤキリスト教文化が英雄崇拝・女性蔑視のイメージを巧みに操作して男性支配型の社会を強化してきたという視点。なお「強調」といってもあくまで「教科書としてのレベル」として私が感じたまでの話で、本全体がそれ一色という訳では決してない)


それを読んだ後でこの小説を読むと、ヨハンナという女性像が極めて現代的な視点から再解釈されているのが非常に良く分かって、これまた驚いた。女として生まれ、異教徒の母を持ち、さらにギリシャ人を師としたヨハンナは、それゆえにキリスト教徒の間にはこびる偏見や因襲から自由であり、聡明で理性的な人物となりうるのだ。


そのせいであまりに賢すぎて嘘っぽく思える部分もあるが、訳者あとがきによるとそれまでは女性禁断の神の園に潜んで修道僧を惑わす妖女、みたいな描かれ方をしていたこともあるそうなので、それに比べたら随分とマシである。
ゲロルトとの恋愛はちょっと展開が苦しいなあとも思ったが、伝承との辻褄を合わせるための苦肉の策なのだろう。


単純に普通の歴史小説として読んでもそこそこ面白いが、現代から捉えた新たな女性像として注目すると更に興味深い、と思わせる一冊。



ローマ法王 (ちくま新書)

ローマ法王 (ちくま新書)


P.99-P.104にかけてヨハンナ伝説に関する記述あり。ここでは「教会の力に対抗する強力なカウンターパンチ」として作られた伝説、と位置づけてあります。





話はズレますが…カバー挿画として使われている画家カルロ・クリヴェッリ、最近よくこの人の絵を見かけるような気がします。某本のブームのおかげで「マグダラのマリア」が注目されたせいかな?


●カイエ「カルロ・クリヴェッリマグダラのマリア』」: 
http://blog.so-net.ne.jp/lapis/2005-02-11


聖母・聖女像にありがちな母性とか慈愛といった甘さから、一歩引いた感じが現代的に思えるのでしょうか。



装丁で印象に残ってるのは、やっぱり↓かなあ。こちらも19世紀が舞台とはいえ著者の視点は極めて現代的でした(にやにや)。


半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)