先月読んだ本から


服従

服従

服従」:ナルシスト男達が闊歩するフランス小説は私の大の苦手とするところなのに、その極北に位置するともいえるウエルベック作品だけはもう新作が出るのが楽しみで楽しみで。《僕、ダメ男。でもそんな自分が(一番)可愛い》という逆説的なナルシズムをさらに半捻りして醒めた目で観察しているようなところが、彼の小説にはある。
今回も、もちろん現代社会分析の鋭さ(極右を避けるためにあえてイスラム系穏健左派に政権を委ねる、とか)もさることながら、「やっぱイスラム教といえば一夫多妻制ウハウハですかね?」「それも大学教授だったら知的職業人としてモテモテですかっ」みたいな、なんともショボい発想を真面目に展開するところが笑えるというか泣かせるというか。内容的に今年中に読んでおいたほうがいい本。(でもオイルマネーはいまやそんな潤沢じゃないと思うわー。)



「日本文学全集08」:「宇治拾遺物語」、町田康の訳がスゴすぎる…というかこれを「文学全集」に収めちゃうという決断が素晴らしい。実際、訳としては破天荒でも「これは町田康の作品だ」といって充分通用しますしね。そのうち完全訳で単行本が出てもおかしくないですが、文学全集から分冊ってことになったら、これはこれで面白いなあ。町田氏の影に隠れてますが、伊藤比呂美の「日本霊異記」訳も結構すごいのよ。
参考:「町田康訳「奇怪な鬼に瘤を除去される」(『宇治拾遺物語』より)」河出書房新社Web)




「善意と悪意の英文学史」/「幼さという戦略」:昨年は阿部賢一(「エウロペアナ」「黄金時代」翻訳)の年だったが、今年はオレの年だ!ともう一人の阿部氏が思ったかどうか分かりませんが(多分思ってない)、つづけざまに2冊の刊行。どちらも発想力・展開力ともにこれぞ学者!と唸らされる分析で読み応えあり。題名から実際の内容が想像しにくいってところが難点でしょうか。ちょっともったいない。



ヴィリー・ブラントの生涯

ヴィリー・ブラントの生涯

ヴィリー・ブラントの生涯」:ドイツ現代史を自分なりに勉強していて非常に強い印象を受けたのがブラント首相のユダヤ人に対する謝罪で、彼の伝記が出たと知って早速読みましたが、意外にも夏頃に読んだ新書「アデナウアー」が良い補助線となってくれた感じ。両者は全く異なる政治的立場を取っていました(アデナウアーは保守派でケルン市長から首相となり現代のEUへ続く西側の結束を固めた人、ブラントは元々社会主義支持者でベルリン市長から首相となり東欧への関心を深めた)が、それは活躍した時代の要請も大きく影響していたわけで、実際ブラントは政治家としてアデナウアーを尊敬していたそうです。時系列的にも「アデナウアー」を先に読むのがおススメ:



ところで、これ↓が観たいがためにAmazonのプライム会員になってしまった…

新しい指揮者を迎えたNYのオーケストラ団員たちのすったもんだ。ガエル君の笑顔はやっぱり良いわー(指揮は下手だけど)。こういうの観てると全然読書が進まん!と焦りつつ、やっぱりいろいろ探して観ちゃう…。