『Xと云う患者 龍之介幻想』関連イベント(於:下北沢B&B)
原書が出た時からチェックしていたのですが、思いがけず翻訳が早く出てくれて嬉し:
Patient X: The Case-Book of Ryunosuke Akutagawa
- 作者: David Peace
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2018/04/05
- メディア: ハードカバー
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読んでびっくり、そもそも原書が芥川はじめ明治の文豪の文章(の英訳)を巧みに引用しながら芥川の生涯を幻想力豊かに辿っていく構成で、それを日本語に翻訳するにあたっては、文豪の文章をなるべくオリジナルに戻しつつ著者独自の文章と融合させる、という手の込んだ、しかし日本語読みには一粒で二度美味しい作りになっているのでした。
日本を舞台にした英語の小説をいかに訳すか?というのは、翻訳家の技量も試されて、結果として力作が揃うことが多いです。パッと思い浮かぶのは小川高義氏が訳した『さゆり』とか:
- 作者: アーサーゴールデン,Arthur Golden,小川高義
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/12/07
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私が最近読んだ中では『北斎と応為』の翻訳も素晴らしかった:
しかも今回は文学、文章そのものがテーマとなる小説なので一層下手な仕事はできない。そんな重責に見事に応えているのが黒原敏行氏。私には「C・マッカーシーの翻訳者」のイメージが強いですが、もちろん他にも多彩な翻訳をされている方:
- 作者: コーマックマッカーシー,Cormac McCarthy,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
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小説自体が面白いのはもちろん、日本語版制作の過程も興味深い...と思っていたところに、著者&翻訳者&柴田先生参加のイベントがあると知ってたまらず出席:
デイヴィッド・ピース×黒原敏行×柴田元幸「芥川龍之介REMIX/REPRISE~文学と翻訳のインターアクション」『Xと云う患者 龍之介幻想』(文藝春秋)刊行記念 | 本屋 B&B
下北沢は私の住むところからは行きにくいので、こういう機会がないと出向かない街。B&Bも移転前に1回行ったくらいかな。案の定、駅近なのに迷子になりました。
イベントは期待通りの充実した内容でした。黒原氏が今回用意してくださった資料がとてもわかりやすかったのでご紹介:
原文のどの部分が芥川作品のどこからの引用か、それに対し翻訳がどうなっているかが一目でわかります。
「今回は文豪があらかた下訳をしてくれたようなもの」とニッコリ笑う黒原氏。どこがどの引用かは著者から聞いたんですか?との問いに「大体は自分で調べたけど、10か所くらいはどうしても判らなくてピースさんに聞きました」。たった10か所ですか!「今は青空文庫とか使って検索もかけられるから昔と違って随分ラクになりました」まあそうだけどそれでもスゴイ。
「翻訳に旧仮名遣いを採用するつもりはなかったのですか?」という質問には、同席の編集者の方が「原文の英語を読んで比較したときに、旧仮名では日本の読者にかかるストレスのほうが高いと判断したので採用しなかった、かわりにフォントに凝ったので注目してほしい」とのことでした。確かに英文は意外と読みやすい。(しかし原作者が朗読するとまた全然印象が違って、これもまたおもしろかったです)
訳者あとがきでも触れてありますが、そもそも本書成立のきっかけは3.11をテーマとしたアンソロジーから:
大震災当時はイギリスにいたピース氏が、自分に何が書けるかを熟考した結果、思い起こしたのが来日直後によく読んでいたサイデンステッカー氏のエッセイの中にあった、関東大震災後の芥川氏と川端氏のエピソードだったのだとか:
ここで書いた短編から発展して、最終的には連作集のような形で一冊に。
芥川作品自体も、昔の説話を自分の文体に組み替えた一種の「リミックス」だったりして、ある意味とても現代的な手法を踏襲しているという指摘にしごく納得。
あとキリスト教との関わりについても言及されていて(題名の「X」には十字架の意もこめられているよう)、その視点から芥川作品を再読してみようかなと思いました。
他にもいろいろ面白い話が聴けたのですが、とりあえず今はここまで。あーまた宿題が増えてしまったな!あと柴田先生監修のこれも読まないと: