先月読んだ本から

3月は結構がんばった!


禁忌

禁忌

『禁忌』:著者の試みが100%成功しているか?といえば必ずしもそうじゃないと思うんですが、普通の小説とは違う、何か歪んだものを感じさせます。もやもやと後を引く一冊。


みんなバーに帰る

みんなバーに帰る

『みんなバーに帰る』:宣伝文の「泥酔文学の金字塔!」で笑っちゃいました。そんなジャンルで金字塔を打ち立ててどうするー。中身は先日読んだ「Young Skins」とも通じるユーモアともの悲しさがあってなかなか好みでした。まあ私も酒飲みなのでこういうの嫌いになれない。


アルタイ

アルタイ

『アルタイ』:前作『Q』と同じく敗者が語る歴史、なのですが、『Q』と比べると最後は敗者(主人公側)にマヌケ感が漂ってしまったような…敗者のカタルシスを描くのはなんとも難しい。


風の丘 (新潮クレスト・ブックス)

風の丘 (新潮クレスト・ブックス)

『風の丘』:二つの大戦を生き延びたある一族の物語、という筋書き自体は王道そのものですが、違うのはイタリアってちょっと地面掘ればザクザク遺跡が出てきちゃうところ。実際、都市開発を進めようと思っても遺跡にぶち当たってハイ中止中止〜って例は多いようですし(うまくやればそれを観光資源にできるんですが)。もちろん出てくるのは遺跡だけじゃなくてもっと恐ろしいものも…という辺りも含めて南イタリアをたっぷり堪能しました。



ホールデンの肖像』:米国のペーパーバック本を中心とした大衆(読書)文化についての数々の考察。昨今流行りのヴァンパイヤものとハーレクイン・ロマンスの関係など、ガチガチに学術的な論文とは一味違った視点が魅力的。こういうのもっと読みたいんだけどなあ。

紙表紙の誘惑―アメリカン・ペーパーバック・ラビリンス

紙表紙の誘惑―アメリカン・ペーパーバック・ラビリンス

(10年以上前に出た↑これも好きでした)



たけくらべ(現代語訳:川上未映子)』:3月の旧著発掘その1。原文と比較すると、普通は脚注で説明するような部分も本文に取り込んで、かなりゆったりと構えて話を進めています。原文至上主義者でなければ、物語と向き合うのにこれって充分アリ、というかとても面白い。読む方にも余裕が出来るのか、美登利と信さん以外の登場人物にも目が向きます。みんな若くてかわいいなあ(←オバサン発言)。

◆参考:「川上未映子さん、一葉「超訳」」(読売新聞)
     「川上未映子さんが「たけくらべ」現代語訳 リズミカルに一葉と一体化」(産経新聞

川上氏が愛読していたという松浦訳↓にも目を通してみましたが、こちらはかなり原文に忠実で、川上訳を読んだ後では現代語訳という気がしないくらいでした。翻訳ってほんとに不思議。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

原文は電子版ならタダ。ありがたいありがたい。



アラバマ物語

アラバマ物語

アラバマ物語』:旧著発掘その2。「ハーパー・リーの新作が発表!しかも『アラバマ物語』の続編!」とのニュースが駆け巡ったのは今年2月のこと。よく聞くとなんだか訳あり感たっぷりですが、そういえば『アラバマ物語』読んだこと無いな(恥)と思い、良い機会なので読んでみることにしました。装丁に時代を感じる…。

◆参考:「アメリカの正義と『アラバマ物語』」(文:宮脇俊文、柏書房サイト)

読む前はもっと人種差別問題が前面に出ているのかと予想していましたが、実際には↑で書かれているように南部の小さな町、会う人誰もが顔見知りという狭い共同体の日常が詳細に描かれていて、その中に(南部だから当然)人種差別もある、という印象でした。共同体に囲われることの心地よさと息苦しさがリアルだからこそ、奴隷制というアメリカ特有の問題もわが身に引き寄せて考える余地がある、ということなのかな。


小ネタですが読んでてずーっと「どうしてスカウトは(本名がジーン・ルイーズなのに)スカウトって呼ばれてるの?」と疑問だったのであとで調べてみました

I also thing that the nickname ‘ Scout’ represents her personality , not only in the sense that she is a tomboy but also in the idea that she is a very questioning person who is constantly ‘scouting’ for more information, new games, reasoning and explanations to things.

「なぜなぜちゃん」みたいなものなんでしょうか…。


映画も観てみましたが原作を読んだ後では「グレゴリー・ペックやっぱりかっこいいな」くらいしか思いつかなかった…オーソドックスなつくりです(私が苦手な)。


ハーパー・リーといえば最近では「カポーティの友達」のイメージの方が強かったりするので、新作(と言っていいのか分からないけど)発表は色々な意味で楽しみであります。



映像関連ではようやく観たコレ:

悪童日記 [DVD]

悪童日記 [DVD]


原作の日本語版が出たのが1991年、私が読んだのはその翌年で、その時の衝撃は今でも胸に残っています。「ぼくら」で語られる原作の異様さは映像化に際しさすがに薄れたものの、東欧アニメっぽいシュールな演出が「戦争時の子供たちの可哀相な日常」と単純化されるのを防いでいます。久々に原作読み直そうかな。


悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)