「Canada」(リチャード・フォード)


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Canada

Canada


チェスと養蜂に興味を持ち、高校入学を待ち遠しく思う15歳の少年・デル。
両親と双子の姉、という家族に囲まれて、平凡でも幸福な生活がずっと続くと思っていた、両親が銀行強盗の容疑で逮捕されるまでは…。


空軍を辞めてから犯罪まがいの仕事に手を出していた父が資金繰りに困り、ついに母親を巻き込んで銀行強盗を実行したのだとデルが知るのは、一旦自宅に戻ってきた彼らが警察に連行されてから後のことになる。


連行前に父とデルが交わす会話。
何かが良くないことが起こっている、しかし何かは分からない不安を抱えるデルと、もうすぐ捕まるであろう事態を口に出せないまま、息子が今後苦難を抱えることを遠まわしに伝えようとする父。この辺りから物語は急速に緊張感を帯びてくる。


姉のバーナーは、この年齢ではよくあることだが同い年のデルよりずっと屈折していて、(といっても15歳なりにだが)年上の恋人と遊び、そのうち家を出ると元から決めている。
結局両親の連行後2人は全く別々の道を歩むことになる。


デルは子供たちを施設に収容させたくないという母の願いに沿う形で、母の友人に連れられてカナダへ逃亡する。(バーナーはその前に失踪する。)突然の人生の転換。勉強好きで内気な少年は未知の土地に放り込まれ、赤の他人の大人たちに指図されながら自分の居場所を確保しなければいけない。


過酷な生活を送りながら、しかし周囲の大人たちの中で一際変わった人物・アーサーにデルは興味を抱く。ハーバード卒のインテリで、しかし何故か辺鄙な場所でデルの働くホテルのオーナーに甘んじているアーサー。
実は彼にもカナダに来なくてはならなかったある理由があった。


壮絶な通過儀礼を経た少年の成長物語、と言えるだろうか。平凡な生活からの急展開、思いもよらなかった他人との接触と予想外の経験がデルを否応なしに大人に変えていく。
もちろんこんな苦難はできることならしたくない、だがその体験から得たものは(良かれ悪しかれ)とてつもなく大きい。これを読んで苦難有りと無しの人生、どちらを望むだろうか。


【参考】
The NY Times:"100 Notable Books of 2012"
The Guardian: "Christmas Gifts 2012:Best Fiction"