「沼地のある森を抜けて」(梨木香歩)

日本人向け図書室で借出し。


沼地のある森を抜けて

沼地のある森を抜けて


代々伝わってきた「ぬか床」に各々の家族固有の生命が宿っていて、それが毎日掻き回されることで変化を遂げていく…という発想にまず、意表を突かれる。なるほど、そう来たかー。


事態が進む中で幾度も問い直される「有性」と「無性」、「分裂」と「結合」、「個体」と「全体」の意味。もちろん答は簡単には見つからないが、フェミニズムの狭い枠を飛び越えた視点が印象に残る。
男性原理から「降り」たくて、でも別に女性になりたいわけではないと「無性」的な生き方を心掛け、人間より菌類の方に遥かに共感を覚えている「風野さん」の造型が見事だったので、中盤の寓話(というのか)とか要らないから、もっと風野さんと主人公の関係の変化を主軸に展開して欲しかったなあ。


最後の方は「利己的遺伝子」みたいな話になったのが個人的にはちょっと興ざめ。日記や文書の出し方ももう一工夫すれば…とも思ったが、取り上げられているテーマは大変面白かった。決して満足はしていないけれど、いろんな人の感想を聞いてみたい、と思わせる作品。