「ブレンダンとケルズの秘密」
2015年に映画祭で観たアイルランドのアニメ「ソング・オブ・ザ・シー」が、Amazonのプライム・ビデオで観放題に!ついでに前作の「ブレンダンとケルズの秘密」も!...って、世の中変わったなあとつくづく思います。こういうマニアックなものほど配信サービスしてほしい:
『ケルト-装飾的思考』からアイルランドにハマった私にはドンピシャの内容。あと白猫のパンガ・ボンがもう可愛いこと!ふだんは欧州の猫キャラって垢ぬけてなくって良いと思わないんだけど、こちらはもう仕草がいちいちネコらしくて好きー!かわいー!の連発でした。
日本のアニメとは全く違う文法で展開される異国のアニメ。どっちも好きです。
最近読んだ本から
あー自転車乗りたい。
直木賞受賞時の印象が強く、ずっと「マタギの人」だと思っていたので、こんな自転車ロードレースものも書くんだ!と驚いてしまいましたが、実はいろいろなジャンルを手掛けていたのね…今度ちゃんと著作ラインナップを見直してみよう。
自転車ロードレースの小説ってあまり無くて、近藤史恵の「サクリファイス」シリーズくらいしか私にはパッと頭に浮かばないのだけど、こちらは「サクリファイス」よりもう少しテクニカルな説明が多くて、ただいまロードレース観戦勉強?中の私にはちょうど面白かったです。
チームで走っているのに表彰されるのは主に個人、というのが不思議な世界だなと今でも思うのだけれど、チームとしての試合の駆け引きや、チーム同士の暗黙の了解、風圧を避けるためのチームワーク、などなど、個人で走っているのではわからない世界なんだろうなあ。
それにしても梶山みたいな師匠がいたら良いよなあ。ついていくよなあ。
こちらも人気が出ればシリーズ化しそうな終わり方。でも恋バナは要らないよ恋バナは(←恋愛ものが苦手)。レースに集中してくれ!
最近読んだ本から
最近特に報道が増えているように思われるヘイトスピーチやヘイトクライムに心を痛めつつ、他国の状況も知りたいと考えて:
『ドイツの新右翼』: かなり専門的で全て理解したとはとても言えないけれど、世間を賑わせている「新右翼」たちがポッと出の集団ではなく、それなりの歴史的経緯を踏まえて出現したものであることが丁寧に解説されていて勉強になりました。特に保守派の唱える「アーベントラント(Abendland)」という概念が気になって、以下の書籍も読了:
黒いヨーロッパ――ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋(アーベントラント)」主義、1925~1965年
- 作者: 板橋拓己
- 出版社/メーカー: 吉田書店
- 発売日: 2016/09/01
- メディア: 単行本
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『黒いヨーロッパ』:著者に関しては以前新書『アデナウアー』を読んで、なるほど「保守派」というのはこういう考え方をするのか、と非常に納得感を覚えた経緯があったのでした。そうやって新書レベルですが予備知識を得ていたことが今回の読書の手助けになったことは間違いないです。
「アーベントラント」とは陽が沈む側の国、要はorient(東洋)に対するoccident なわけですが、それが政治思想的な意味合いを(勝手に)つけ加えられて、ちょっと胡散臭い 使われ方をされるように。第一次大戦後にベストセラーとなったシュペングラーの『西洋の没落』の「西洋」にあたる部分が、原題では Abentland だったことで、その傾向に拍車がかかった模様:
◆参考:
(以前は「古典」「名著」の類だと思っていたのだけれど、今回いろいろ調べてみると、むしろ「問題作」「奇書」と言ったほうが合っているのかも...と思ってしまいました。まあとにかくインパクトの強い本ということですね。便乗本も多いし)
話を『黒いヨーロッパ』に戻すと、著者は序章で「アーベントラント」の概念をざっくり以下のようにまとめてくれています:
1.反近代;宗教改革以前のキリスト教的共同体としてのヨーロッパへの郷愁
2.反個人主義;近代の産物である「理性的で主体性を持つ個人」の否定
3.反(大衆) 民主主義;大衆の政治参加への懐疑
4.反近代国民国家;理想化された神聖ローマ帝国が範とされ、連邦主義が理想
5.反「東」;イスラムであれ、ロシア(ソ連、または共産主義、あるいはロシア正教)であれ、「東」への対抗
この傾向が過激になると昨今の新右翼へつながるわけですが、第二次大戦後のEU成立も、マイルドな形であれ上記のような発想が作用していた...と考えて歴史を振り返ってみると、結構思い当たるところがあって唸ってしまいます。前述の『アデナウアー』でも、彼が東側との融和よりも西側での団結を強く求めた結果により、EUの成立と「壁」の出現に影響を与えた経緯が描かれていたわけですが、それを支えていたのは上記の「西洋」主義だったのかも。もう一度『アデナウアー』を読み返してみようっと。
今までと違う視点から歴史をとらえるきっかけとなった、非常に刺激的な読書でした。今後も関連本を探してみようと思います。
上述の板橋拓己教授参加の最新作なので、まずはこれも読んでみようと思ってます。(しかし最近はみんな教養教養ってやかましいね)
[映画]ドイツ映画祭2019(於:ユーロスペース)
毎年いつやるの?どこでやるの?そもそもやるの?、とヤキモキさせられるイベントですが、今年は渋谷のユーロスペースで約1週間にかけて開催。がんばって5本観てきました(が、仕事帰りで疲れていたので結構途中で寝ていた...)。以下、覚え書き程度の感想:
「未来を乗り換えた男」(原題:Transit)
「東ベルリンから来た女」や「あの日のように抱きしめて」など、独特の世界観を持つペッツォルト監督の作品。今回も、話が進んでも時代背景がよく飲み込めずモヤモヤしたまま観了。
あとで調べたら第二次大戦時代と現代の難民問題を重ねた、との解説で、つまりパラレルワールドというか寓話的な空間と割り切って観ればよかったのでしょう。時間も空間も登場人物もみな原題の"Transit"、つまり乗り換え前でどこにも所属できないまま待機を強いられている「宙づり」状態そのものを描きたかったのだと思えば、それは上手く表現されていると思いました。
でもそれならこの邦題はちょっと的を射てないな…。
あと個人的にマリーみたいな女性は全く理解できないので観賞中「なんだおまえは!」とずーっと思ってました。世の男たちはどうしてこういう女に弱いのかなあ?(まあ寓話よね寓話っ)
「僕たちは希望という名の列車に乗った」(原題:Das schweigende Klassenzimmer)
実話を元にした、という但し書きがなければ「ちょっと分かり易すぎる展開」と思ってしまうかも。悪役である体制側に、高校生とその家族がどこまで純粋に立ち向かえるか、という筋書き。ちょっと演出が舞台劇っぽいかなあ。
特筆すべきはやはり若き役者さんたちの熱演ぶりで、なかでも主演のテオとクルトを演じた2人の絡みは、ずっと観ていたかったくらい。もちろん見た目もいいし、これから人気が出そうです。
個人的には、ご贔屓のフローリアン・ルーカス君が頼りない校長先生役で出ていたのがツボでした。
しかしこれも邦題がやや的外れというか…。最後まで観ると「まあそういうことか」とも思うんですけど、それでもしっくりこない感じ。原題は直訳すると「沈黙(黙祷)する教室」で、ケストナーの名作「飛ぶ教室」を意識しているのでは、とのこと。
「希望の灯り」(原題:In den Gängen)
クレメンス・マイヤーの短編が原作。旧東独の巨大スーパーで働く労働者階級のひっそりとした日常とささやかな恋愛、という地味地味な題材ながら、卓越した音楽効果とバッチリ決めた構図でなんとも魅力的な映画に仕上げてきました。久しぶりに映画を観る楽しさを満喫したなー。
特になんといってもフォークリフト!スーパーの狭い通路を軽やかに駆け抜けるフォークリフトが快感で、運転オンチの私ですら「わーこれは乗り回したいわ!」と思いました。はたらくクルマ好きには是非観ていただきたいです。
あと、昔に観たおバカなPVを突然思い出したので忘れないように貼っておこう:
Sportfreunde Stiller - Ich, Roque
(映画とは全く関係ありません。でも何度観てもおバカすぎて好きだ)
- 作者: クレメンスマイヤー,Clemens Meyer,杵渕博樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/03
- メディア: 単行本
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原作を含む短編集はこちら。
(追記:原作を再読。やっぱりすごく地味な話でした(笑)が、映画は主題を押さえつつキレイに磨きあげたという印象。うまいなあ)
「ソーシャルメディアの"掃除屋"たち」(原題:The Cleaners)
誰もが気軽に情報を発信できる一方で、過激・残酷な内容に歯止めをかけるのが難しいSNS。コンテンツ検閲という業務を通じて見えてくる「表現の自由」の線引きの難しさ。正攻法のドキュメンタリーで、(実は半分くらい寝てしまいましたが)訴えたいことはきちんと受け止めたつもり。
「キャスティング」(原題:Casting)
ファスビンダー映画のTVリメイク化が決まるも、監督は主演女優がなかなか決められず… という制作の舞台裏を皮肉たっぷりに描いた作品。役者の本音と建前、そして映画脚本の台詞が重なり合って、見応えのある仕上がりに。相手役の代役を務めるケルヴィンさんの振り回されぶりが、なんともオモシロ悲しくてよかったです。
最近映画を観るのはネット配信ばかりで映画館にはとんとご無沙汰だったのですが、やっぱりこうやって足を運ぶのっていいですね(寝てましたが…)。特にユーロスペースは学生時代お世話になった(といっても当時は同じ渋谷区でも桜丘の方にあったはず)ので、こうやって頑張ってくれているのは感慨深い。またいろんな映画が観たくなりました。
ブラザー・フロム・アナザー・プラネット <HDマスター版> [DVD]
- 出版社/メーカー: エムスリイエンタテインメント株式会社
- 発売日: 2008/02/27
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旧ユーロスペースでこの映画を観たのを強烈に覚えてます。ちょうど名画座からミニシアターへと興行形態の流れが移っていった時期。学生時代に両方とも体験できた自分は幸せだったなあと今でも思っています。
最近読んだ本から
なんだか最近また忙しいぞ…。
「小説についての小説」は、本読みにはひときわたまらない魔力を持っている。作家にとっても一度は書いてみたくなる題材なんだろうな。モリミン(笑)がそれを書くとはちょっと意外だったけど、この手にありがちな頭かちかちでブッキッシュな内容にならずに、なんとなくほんわか仕上げてくるのが彼らしくて良かったです。
小説内では言及されなかったけど、マキさんの祖父の図書館に必ずあったであろう一冊。私にとって「千一夜」絡みの小説といえばこれ。
物語を「構造」で読ませる面白さを最初に教えてくれたのも、この『キマイラ』だった。ああ復刊してくれないかなあ。でもジョン・バースなんて今は誰も読まないのかなあ。
モリミンのデビュー作。これをファンタジーノベル大賞に応募したというのもスゴイけど、大賞をあげちゃうのもスゴイ、と当時大変感心したものでした。
一時期行き詰っていたようだけど、最近は順調に新刊も出ていて嬉しい限りであります。
最近読んだ本から
- 作者: エドワードセント・オービン,Edward St Aubyn,国弘喜美代,手嶋由美子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/11/20
- メディア: 単行本
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「パトリック・メルローズ」:全5部作のうち2巻まで読了。乱暴にまとめれば、父親に肉体的にも精神的にも虐待され、クスリに溺れる貴族の青年の破滅と再生の物語。読んでいて連想したのは萩尾望都「残酷な神が支配する」の(キツイ)前半なのだけれど、こっちは実の父親で、また上流階級特有の非情さが示されるところが別の意味でキツイ。この辺の心理状態は、いつか新井潤美先生に解説していただきたいわー。
基本的に「クスリでラリラリ」系の小説は苦手なんだけど、終始一貫したシニカルな物言いに目が離せない。著者の半自伝的小説ということは、最後はちゃんと立ち直るってことだよね?とかすかな希望を感じながら、とりあえず最後まで読むつもり。カンバーバッチのドラマは全部終わってからまとめて観ます(映像で観たら途中でくじけそう…)。
【特別映像】 独占!主演カンバーバッチが語る 『パトリック・メルローズ』
確かに彼ならパトリックを魅力的に演じてくれそう。
パブリック・スクール――イギリス的紳士・淑女のつくられかた (岩波新書)
- 作者: 新井潤美
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/11/19
- メディア: 新書
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英国上流階級ってホント特殊…。