最近読んだ本から
あけましておめでとうございます。
今年の読み初めはこちらの一冊から:
『炎の色』:ゴンクール賞受賞作『天国でまた会おう』の続編となる作品。とはいえ前作を知らないと話が分からない、というわけではない。前作より一層大胆に仕掛けてきたという印象で読後感は爽快。お正月にはちょうどいい読書となりました。一応三部作構成ということなので、次作で完結とのこと。
すでに前作は映画化されて日本でも一般公開目前、ということでこちらも楽しみ。
仮面が予想以上にキテレツで私好みだわー、いいわー。
いろいろ忘れてる部分も多かったので近々再読予定。
(1/13「天国でまた会おう」再読。映画の予告編観て、あれアルベールってこんなおっさんだったっけ?と思ったのだけど、やっぱり原作では30歳前後の気弱な青年という設定でした。でも30歳にしてあの面倒見の良さはちょっと出来すぎだと思うので、これまで色々うまくいかなかった人生にここで一発大逆転、みたいなおっさん年齢の方が確かに説得力あるかも。映画の監督が主演もやりたかった、という現実的な理由も多分にあったんだと思うけど、これで映画は小説とはまた違った楽しみ方ができそうです)
2018年ベスト
今晩から相方の実家方面に向かうのでPCに向かうのもこれが今年最後かなと:
〔国内〕
気がついたらいつものお気に入り作家作品ばかり選んでいました。来年はもっと開拓しよう。
〔海外〕
- 作者: ビルギット・ヴァイエ,Birgit Weyhe,山口侑紀
- 出版社/メーカー: 花伝社
- 発売日: 2017/10/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (5件) を見る
個別には挙げないけれど、相変わらず韓国の現代文学が良い感じの流れで日本に紹介されていて嬉しい限り。さあ次は台湾文学だ!と楽しみに思っていたところに第一の貢献者である天野健太郎氏の訃報を聞いて愕然。ご冥福をお祈りします。
最後に私生活ベスト3:
1位:プロ野球を観に行った
…某選手の「沼」にハマりました。本来おやじ好きな私がここにきて若い男子に人生を狂わされるなんて、まだまだ世の中捨てたもんじゃないなあと思いました(やけくそ)。今日も推しの笑顔が尊いです。
2位:35年ぶりにアニメ雑誌を買った
こっちは推しとか萌えとかではなく、いまNHK放映の「ツルネ」が元弓道部としてはなんとも懐かしく(さすが京都アニメーション、一つ一つの所作が丁寧ですばらしい)、更なる情報収集を求めたわけですが、いまはイケメンキャラ専門誌というのもあるのね…。声優専門誌もわさわさあって、最近の声優さんは露出も多くて大変だなあと改めて思いました。アニメは好きだから普段もそこそこ観てますが、こっちの沼にはハマらないようにしないと時間が足りないわ(沼は一つで十分です)。
3位:ドイツ語の再勉強をはじめた
在独時代はかなり英語に頼っていて、今でもグーグル翻訳で英語に直せば大抵の文章の大意はつかめるのだけれど、やっぱり「文脈」でなく「文法」で読めるようになりたい、だって最後に支えになるのはやはり文法だから。
…というわけで秋から上智の公開講座に通い始めたのですが、これまで自分をひっぱってくれた英語の知識が、いまは「壁」となって立ちはだかっている感じ…特に前置詞が(英語と似ている部分も多いゆえに)さっぱりわかってなくてヒドイ。まあこういうのは理屈じゃなくて数をこなして体で覚えるしかないんですけどね。へこみつつ続けてます。
振り返ると、忙しかったけど充実はしていたかな…来年もがんばりますのでよろしく。
"All We Shall Know"(ドナル・ライアン)
半年以上前に購入しながらもなかなか読めず、最新作 "From a Low and Quiet Sea" がブッカー賞候補になったのをきっかけに最近ようやく読み始めたら、いやあものすごく良かったんです:
All We Shall Know (English Edition)
- 作者: Donal Ryan
- 出版社/メーカー: Transworld Digital
- 発売日: 2016/09/15
- メディア: Kindle版
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女教師が教え子と恋仲になって子を宿し…って、 出だしの筋書きだけだと最近のドラマみたいですが、実は教え子は作中ほとんど出てきません。これにはちょっと驚いたけど、恋愛小説が苦手の私としては、むしろありがたい展開でした。
主人公のMelodyは弱くて悲しい女性です。幼少時に母親に死なれ、そのせいもあって自分を溺愛する父親をかえって疎ましく思い、大学卒業後も目指す道が見えず、学生時代からの恋人と結婚したものの何度も流産を繰り返した末に、ダンナは商売女と浮気して…といった過去が、読んでいくうちに少しずつわかってきます。Melody自身も学生時代に自分の身勝手が原因で親友を自殺に追いやってしまうなど、読者が簡単には感情移入できない女性として描かれています。
やるせない日々の暇つぶしのような感覚で Melodyが始めた家庭教師の最初の教え子が、アイリッシュ・トラベラーの Martin。一般的な教育を受ける機会がなかったMartin にアルファベットから教えはじめたわけですが、世間とは隔絶された世界で育った純朴な青年に彼女はいつしか…。
「アイリッシュ・トラベラー」についてはアイルランド独自のジプシー(ロマ)みたいな集団、というくらいの認識(大雑把な印象は、アイルランドじゃないけど映画「スナッチ」のブラピ)で、読了後にネットで資料を探してみても日本語でちゃんと説明されているのはWikipediaとあと何本かの記事くらい。この辺は今後もう少し理解を深めたいところではあります。
(映画ではトラベラーでなく「パイキー」として紹介されています)
妊娠がわかったとき Martin はすでに他の地に移動しており(トラベラーだからね)、Melodyはその場に残った彼の親族のうち Mary という少女と次第に交流を深めていきます。この二人がゆっくりと(本当にゆっくりと)友情を築いていく過程が読み応えたっぷりでとても素晴らしかった。
Mary もトラベラー独自の風習により、まともな教育は受けられず、10代半ばで結婚し、その後子どもができないのが「恥」として送り戻されて軟禁状態という、若くしてつらい人生を送っており、Melody とは裏表の関係のような存在です。立場は違えども女性ならではの苦しみを抱えているという共通点から、二人は次第に互いの人生に関わりを持つようになっていきます。
その中でMelody は親友の死に対する自責の念に、正面から向き合うだけの強さを手に入れていくのです。
イヤなところや狡い部分も含めて、よくこれだけ巧みに女性心理を描くなあ…と恐れ入ったのですが、作者自身は登場人物が「女性だから」書くのが難しいってことは無いと巻末収録のインタビューで語っていて、やっぱり作家ってスゴイと思いました。それくらい私には彼女たちが現代を生きるリアルな女性として感じられました。
最新作はこちら。早く読まねば:
From a Low and Quiet Sea: A Novel (English Edition)
- 作者: Donal Ryan
- 出版社/メーカー: Penguin Books
- 発売日: 2018/07/17
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
デビュー作『軋む心 (The Spinning Heart)』は翻訳あり:
デビュー当時から非常に評判が高く、その後も着実に新作を発表しており、すでに若手の中では頭一つ抜けている感がありましたが、今回初めて英語で読んでみて、その流れるような文章と、話の展開のうまさに思わず舌を巻きました。平易なのになぜか胸に響いて、ずっと読み続けていたくなる心地よさ。これからも要注目です。
最近読んだ本から
最近、気になっている流れで:
昔からウィリアム・モリスは好きで、彼の社会主義的な運動も当然知っていたのだけれど、現代の潮流に合わせて捉えなおすと、なるほど確かに分かりやすく面白い。
彼らの活動を「空想的社会主義」と言い捨てたエンゲルスだけど、結局マルクス&エンゲルスの運動も壮大な空想の産物だった、ともいえる現在の状況で、もう一度社会主義の原点に立ち返ってみることは必要のように思える。
自分に故郷というものがないせいか、どうしても地方復興に関しては一歩引いた感じで見てしまうのだけれど、モリスの視点を重ねることでちょっと取っ掛かりがつかめたような気がします。
小野二郎氏のこの本は、学生の頃によく読んでました。懐かしいなあ。
最近読んだ本から
実は津島佑子作品って読むの初めてかも:
きっかけはミーハーながら「ゴールデンカムイ」(アイヌつながり):
3分で振り返り!TVアニメ「ゴールデンカムイ」第一期スペシャル映像ッ!!
(杉元の「アシリパさん」呼びがいいよね)
と、少し前に読んでいた『混血列島論』。確かこの本の中で紹介されていて興味を持ったはず:
池澤夏樹ファンとしては『静かな大地』も外せない:
アイヌと日本人の混血として生まれた少女チカップ(チカ)が、隠れキリシタンの少年と共に安住の地を求めて東北から長崎へ、さらにマカオまで流浪する…って、あまりにも私好みの設定で、ドキドキしながら読んじゃいました。
アイヌへの差別、隠れキリシタンへの迫害、どちらも悲惨な歴史なのですが、物語の中では直接的描写ではなく、あくまで伝聞や推測として語られるので、意外に淡々と話が進んでいく印象。まああまりリアルにやると、つらすぎて読めなくなるからね…。
ずっとチカップが口ずさんでいるアイヌの唄が、物語に一定のリズムを与えている。実際にアイヌの言語の響きを知っていたら、もっとイメージがふくらんだだろうと思うと、ちょっと勉強してみたくなる。
冒頭で登場し、『混血列島論』でも言及されていた「ゲンダーヌさん」の話も、そのうち読んでみるつもり:
*[読書]「はじめての海外文学スペシャル」(於:青山・東京ウィメンズプラザ)
11月4日に行われたイベント「第3回はじめての海外文学スペシャル」に行ってきました:
hajimetenokaigaibungaku.jimdo.com
私は今回が初参加だったので、会場でいったい何をするのか実は良く分かっていなかったのですが、要は翻訳者の方々が持ち時間3分で自分のおススメ翻訳本をプレゼンテーションする、という企画。紹介するのは自分の訳書でも他人の翻訳でもOK、また新刊・旧刊は問わず。最終的には約20人もの翻訳者の方々が集まり、熱いプレゼンとなりました。
「海外文学、全然はじめてじゃねーよ?」みたいな私みたいなスレた読者向けではないのかな?とちょっと心配していたのですが、新刊でも意外と題名すら知らない作品も多く、話を聞いて読んでみたい本が目白押しで個人的にはかなり危険(笑)なイベント。すぐそばの青山ブックセンターが、企画と連動した書棚を設けていたのですが、イベント後はすごい人出で棚に近寄ることも出来ず、今回買うのはあきらめました。情報はしっかりいただいたので、そのうち読んで感想など書きます。
しかし翻訳家が本業の翻訳以外に、販促やプレゼンまでやらなければいけないって大変だなあ…と思ってしまいました。本当に本が好きじゃないと出来ない仕事だな…。
まとめ「はじめての海外文学 Vol.4」を作りました。きのうの「はじめての海外文学スペシャル」、書店の様子、応援読書会などについてのツイートがまとまっています。https://t.co/oVYQJra8Kb
— 越前敏弥 Toshiya Echizen (@t_echizen) November 5, 2018
司会の越前さまはじめ関係者の皆さま、お疲れさまでした&ありがとうございました。抽選で本もいただきました!(クオンさん応援してますって、ちゃんと言えば良かったなあ。後悔。)
夜よ、ひらけ (韓国文学ショートショートきむふなセレクション)
- 作者: チョン・ミギョン,きむふな
- 出版社/メーカー: クオン
- 発売日: 2018/10/31
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
最近読んだ本から
雑誌「三田文学」2018年8月号:ドイツ特集だったので読んでみました。
イリヤ・トロヤノフの短編は短すぎて、私の好みでもなく残念。もっと紹介されてほしい作家なんだけどなあ。
英語版を読んで感想を書いたのってもう10年近く前なのか!ちょっと茫然。
先日刊行したトーマス・メレ『背後の世界』の抄訳が読めたのは良かった。著者は近々来日ということで、機会があればイベントに参加したいと狙ってます。
◆参考:ヨーロッパ文芸フェスティバル:https://eulitfest.jp/
ノーチェックだったアバス・キダーの作品「ナス共和国行きの手紙」抄訳と、訳者・浜崎桂子氏の解説が、移民に揺れるドイツの現在を的確に捉えていて興味深かった。これ全訳が出ると良いなあ。
これもそのうち読んでおきたい。